■失敗しかけた作戦
アディショナルタイムにはいってすぐ、時計で言えば「後半47分11秒」にも、ほぼ同じところでオランダはFKを得ている。最後のFKより1メートルほどゴールに近い地点だったが、このときにもオランダの選手たちの大半は最後のトリックFKと同じところに立っている。ただひとり、最後のFKではボールから離れてペナルティーエリア右外に何げなく立って「第4のオプション」に備えていたベルフハイスが、このときにはコディ・ハクポ、テーン・コープマイナースとともにボールの後ろに立っていた。
この試合で「あのトリック」を使う最後のチャンスになるかもしれない。私がファンハールだったら、このFKの前に「あれを使え!」と指示を出したに違いない。他の選手たちは「トリック」の準備ができた状態でキックを待っている。しかしベルフハイスは自らの左足を信じ、力いっぱい振り抜いて、そしてアルゼンチンの「壁」を直撃、ボールはクリアされた。
他のオランダ選手たちはどう思っただろう。ベルフハイスは頭をかかえた。しかし他の選手は「次のボール」に集中していた。「なぜあれを使わないんだ!」などという態度をとった選手はひとりもいなかった。オランダは見事な「チーム」だったと思う。互いに信頼し合い、自分たちの力を信じていた。