オランダ代表はリヌス・ミケルス、ヨハン・クライフの時代から、先進的なサッカーで知られる。だが、その底力は華やかなプレーだけに表れるのではない。たった1つのFKの裏に隠された入念な準備と胆力、そしてチーム力の物語をサッカージャーナリスト・大住良之が解き明かす。
■始まりはコーチ会議
最近よく「デザインされたCK」「デザインされたFK」といった表現を見聞きする。しかしただデザインしただけでは、こんな時間に、シンプルながらこんなに組織的なFKを成功させることなどできない。入念に準備され、そして十分にトレーニングされた結果であったのは間違いない。
その詳細が明らかになったのは、横浜で開催された「JFAフットボールカンファレンス2023」の1日目、1月14日に「ワールドカップの舞台裏(オランダ代表)」と題されたセッションだった。発表者はオランダ代表のGKコーチとしてワールドカップに参加していたフランス・フック氏。2019年から日本サッカー協会(JFA)の「ゴールキーパープロジェクト」のアドバイザーも務めている。
話は「衝撃のFK」から2年以上前、2020年の秋に始まる。オランダの代表コーチ会議で、あるコーチが「これ、使えるんじゃないか」と、ひとつの動画を見せた。10月25日に行われたブンデスリーガのVfLボルフスブルクとアルミニア・ビーレフェルトの試合、0-0で迎えた前半19分のシーンだった。