サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、サッカージャーナリスト・大住良之による「超マニアックコラム」。今回は、「サッカーの王様」について。エピソードとともにペレを紐解いていく。
■その2 15歳でデビュー、17歳でワールドカップを制す
「ペレ、サントスに誘拐される!」
1956年6月8日、サンパウロ州のちょうど真ん中あたりにある「バウル」という町の新聞がこんなセンセーショナルなタイトルの記事を載せた。前年にサンパウロ州選手権で20年ぶり2度目の優勝を飾ったばかりで、ビッグクラブとはいえないサントスFCがまだ15歳のペレと仮契約を結んだというのだ。
バウル市では、ペレはすでに有名人だった。ジュニアの試合で得点を取りまくっていたからだ。彼は信じ難いテクニックとシュート力だけではなく、猛烈な加速力を見せていた。同じ年代の試合では、なんと15ゴールを記録して24-0の勝利に貢献したこともあった。11-0の試合で9点をマークしたこともあった。
サンパウロ州きってのビッグクラブであるサンパウロFCはすぐにもプロとして契約したいと言ってきた。彼の名は、サンパウロ州にとどまらず、この国の「サッカー首都」でもあるリオデジャネイロにも知られるようになっており、リオの名門クラブからは、具体的な契約の話もあった。しかし父の友人であり、ペレの「後見人」と言ってよかったバウデマル・デ・ブリト(サンパウロFCやフラメンゴで活躍した元ブラジル代表ストライカー)は、ペレをサントスに連れていったのだ。ペレのプレーをひと目見たサントスは即座に契約を決めた。