■世界の頂点にふさわしいタフネス

 果たして、準決勝ではクロアチアを3対0で退けた。ようやくつかんだ盤石の勝利だったが、決勝戦を前にした評価は厳しいものがあった。フランス優位の声は大きかった。

 前半を2対0で終えた時点で、アルゼンチンは90分以内で決着を着けたかっただろう。着けるべきだった。しかし、キリアン・エムバペにスーパーな一撃を見舞われ、今大会2度目の延長戦に持ち込まれた。

 ここでメッシがフランスを突き放す。109分、ゴール前のこぼれ球を素早くプッシュした。

 本来なら3対2で終わらせるべき試合である。しかし、この試合2度目のPKを献上し、エムバペにハットトリックを許してしまった。フランスの執念が実ったとも言えるだけに、PK戦突入も受け入れざるを得なかったかもしれない。

 PK戦はロシアンルーレットのようなものだが、W杯の決勝戦である。結果次第で歴史は変わる。そして、アルゼンチンは36年ぶりの優勝を手にした。1986年のメキシコでディエゴ・マラドーナが掲げたW杯を、メッシが母国にもたらしたのだ。アルゼンチンにとっては、忘れられない一日となっただろう。

 それにしても、である。サウジアラビアに負けたアルゼンチンと、フランスをPKで下したアルゼンチンは、まったく別のチームとなっている。20代前半の選手たちが、この一か月弱で急成長を遂げた。

 さらに言えば、29日間で7試合を戦い抜いたアルゼンチンは、世界の頂点にふさわしいタフネスさを備えていた。中3日や中4日で連戦を消化し、それでもパフォーマンスを落とさない。それこそが、世界のトップ・オブ・トップでしのぎを削る必要条件だということを、アルゼンチンの戦いが教えてくれている。

(12)へ続く
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