■プレーと真逆のピッチ外
噂には聞いていたが、メッシのテクニックはもちろん本物だった。腰を落として重心を低くして細かく繊細なボールタッチでボールを運んでいく。まさに、アルゼンチン・スタイルのドリブルの典型のようなプレーだった。
だが、同時にその線の細さ、触っただけでも砕け散ってしまいそうな繊細さを見て、彼がフル代表としてどこまでやっていけるのだろうかという危うさも感じたものだ。
試合後のミックスゾーンに現れたメッシは、か細い声でボソボソとしゃべっているので聞き取るのが困難だった。成長ホルモンの分泌異常という病気を、FCバルセロナが治療費を負担することでようやく克服したという物語はすでに有名な話だったが、僕は伏し目がちにか細い声で話すメッシの様子を見ながら、本当に彼が厳しいシニアの大会で屈強なDFと対峙しながらプレーできるのだろうかと心配になったものだ。
そのメッシが、クラブレベルでも代表レベルでもトップクラスの試合をこなしながら、20年近いキャリアを積み重ねてきたのである。感慨無量である。
風貌も厳しい勝負師としての顔に変わった。また、ひげを生やすなど本人もそのあたりを意識していたのかもしれない。
そのリオネル・メッシにとって最後のワールドカップ……。チャンピオンズリーグやコパ・アメリカで優勝を遂げ、個人としてもバロンドールを7回も獲得。メッシにとって唯一欠けるのがワールドカップのタイトルである。
ディエゴ・マラドーナにあってメッシにないもの。その最大のものがワールドカップ優勝経験なのではないだろうか。