10月23日14時、J2リーグ最終節、ロアッソ熊本対横浜FCの試合がキックオフされる。日本サッカー界のレジェンドはそこで――。
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中村俊輔が現役を引退する。そのニュースに触れた瞬間、記憶のなかでたくさんのシーンが立ち上がった。
所属クラブでの彼を番記者のように追いかけたことはないが、日本代表ではもれなく見てきた。2000年2月の国際Aマッチデビューから10年の南アフリカW杯まで、出場した全試合を現地で取材した。
Aマッチ出場は「98」を数える。ゴールも「24」ある。印象的な試合は数多い。そのどれもが、中村俊輔というプレーヤーの技術の高さ、戦術眼の高さ、それにサッカーへの愛を示している。
そのなかでも、個人的に印象深い試合やゴールをピックアップしてみた。素晴らしいゴールを決めたなどの個人的なパフォーマンスはもちろん、彼のキャリアにおいての重要性、その試合の位置づけや対戦相手なども考慮した。異論の声があるかもしれないが、ここに選んだものも特筆すべきもののはずだ。(#1~4のうち2)
■「ヤットの場所だけど、どうする?」「どっちでもいいけど。シュン、蹴る?」
中村俊輔の日本代表におけるキャリアでは、03年6月20日のフランス戦に触れないわけにはいかない。前年秋に始動したジーコジャパンは、初の国際大会となるコンフェデレーションズカップに出場していた。
フランスには01年3月に0対5で敗れている。「サンドニの悲劇」などと呼ばれた一戦だ。中村はこの試合に先発し、前半だけで退いていた。試合前には「あの時も0対5という結果があって、そこからチームが良くなっていった。今回も向こうの力を尊重しつつ、ちゃんと自分たちのサッカーをやって、どんな結果が出てもそこから進んでいく。そういうふうに戦えたらな、と」と話していた。
中村の見せ場は59分にやってくる。FW高原直泰の突破から直接FKを得た。ポイントには中村と遠藤保仁が歩み寄る。ふたりが話す。
「ヤットの場所だけど、どうする?」
「どっちでもいいけど。シュン、蹴る?」
「じゃあ、オレ蹴るよ」
正面から左寄りは遠藤が蹴ることになっていたが、この場面は中村に託された。遠藤がボールをまたいでおとりになる。
「GKが見えた。だからあのコースに蹴った」
4枚の壁を越えたキックは、鋭い弾道を描いてゴール右上スミへ吸い込まれていく。名手ファビアン・バルテズを鮮やかに打ち破った。彼にとって代表通算9得点目となったこの一撃は、フリーキッカーとしての名声を国際的に高めたものだっただろう。