大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第100回「健全な失点数」(3)イタリア代表とセリエAが誇った「カテナチオ」の変遷と功罪の画像
セリエAの凋落も経験しながらイタリアは2006年W杯を制した 撮影/原悦生

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「1点と2点の間のゲーム」。

■驚異的だった「傲岸不遜」GK

 「傲岸不遜」を絵に描いたような男は、カリャリ移籍の2シーズン目に当たる1969/70シーズンのセリエAの30試合に出場し、なんと20試合で「クリーンシート」を記録し、1試合平均では2004/05シーズンのチェルシーを上回る0.367失点というとんでもない記録を残すのである。

 しかもこのエンリコ・アルベルトーシが守るゴールに90分間で複数回ボールを送り込んだライバルはわずか1チームだった。シーズンの終盤、3月15日にアウェーで対戦したユベントスである。

 カリャリはDFコムナルド・ニコライの不運なオウンゴールで先制を許したが、前半のうちにCKからリーバがヘディングで押し込んで同点とした。そして後半はともに1本ずつPKを得て、カリャリはリーバが決めて2-2の引き分けとなった。すなわち、アルベルトーシが破られたゴールはオウンゴールとPK(しかも1回失敗してやり直したものだった)だけだった。彼が大口を叩くのもわかるような気がする。

■カリャリを越える驚異のチーム

 ただし、この当時のイタリアのサッカーが「カテナチオ」の時代だったことも、「1試合平均失点0.367点」という「異常事態」の背景にはある。「カテナチオcatenaccio」とは、「南京錠」のことで、ゴールにカギをかけてしまうという意味であり、この守備的姿勢が1950年代から1960年代にかけてイタリアで大流行した。このシーズン全240試合で生まれた総得点は464。1試合平均1.933点という少なさだった。

 失点が1試合平均1点を下回ったチームがカリャリを含めて6チームもあり、最多失点の15位(降格)パレルモでも45点。1試合平均1.500点という低さだった。それにしても、カリャリの11失点は驚異だ。リーバの21点を含むカリャリのシーズン総得点は42。合計すると53点で、このシーズンにカリャリの試合を見に来た人は、1試合に2ゴールを見ることができればラッキーだったことになる。

 しかし上には上がいるものである。このシーズンを10位で終えたボローニャは、得点22、失点24の合計46ゴール。30戦して6勝16分け8敗。16分けのうちには7試合もの「スコアレスドロー」があり、8試合は「1-1」だった。ボローニャのファンは楽しかったのだろうか。

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