■極めつけの「ペナルティー・セーバー」
極めつけは、「ソンディコ」社がつくった「ペナルティー・セーバー」という名の「3本指」のGKグローブである。親指と人さし指は独立しているが、他の3本の指はまとめられた「ミトン」タイプ。PK戦専用だった。PK戦では、ボールをキャッチする必要はない。はじき返すかはじき出せばGKの勝ちだからだ。このグローブはボールに当たる面積が広くなり、はじく力が増すというアイデアだった。
このグローブを入手し、マンチェスター・シティとの2013年FAカップ決勝戦に密かにバッグに入れていったのが、ウィガン・アスレチックのGKアリ・アルハブシだった。オマーン・サッカー史上最高の選手とされ、オマーン代表136試合。194センチの長身に冷静な判断力と信じ難い反射神経の持ち主で、PKストップのスペシャリストでもあった。
彼はウィガンの控えのGKだったが、もしもPK戦になったら必ず出番がくると確信し、「ソンディコ」製のグローブをバッグに入れてウェンブリースタジアムに向かった。試合は0-0のまま終盤を迎え、アルハブシは胸を高鳴らせた。しかし後半39分にシティのDFパブロ・サバレタが退場、勢いを得たウィガンは、アディショナルタイムにはいって間もなく、右CKを受けたベン・ワトソンが見事なヘディングシュートを決めて勝負をつけた。もちろん、アルハブシはベンチから飛び出して狂喜したが、彼も「ソンディコ」の「ペナルティー・セーバー」もカップファイナルの大舞台で出番を得ることなく終わった。