大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第99回「GKが止めるのか、グローブが止めるのか」(3)進化の最先端はドンナルンマの「トゲつき」の画像
時代の最先端はドンナルンマの「トゲつき」だ 写真:ロイター/アフロ

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「天狗のうちわ?」

■止まらない進化の歴史

 その後、GKたちはさまざまな工夫をした。1920年代のイングランドのあるGKは、指を出す形で包帯を手に巻き、強シュートに対する保護とともにグリップ力を高めようとした。1950年代から60年代にかけてアーセナルで活躍したジャック・ケルシーというGKは、試合前にチューイングガムをかみ、それを両手に貼りつけてキャッチングを安定させようとした。1960年代前半にノルチェーピンで活躍したスウェーデン代表GKベント・ニイホルムは、はえ取り紙を手のひらに貼りつけ、ケルシーと同じ効果を狙った。

 やがて1960年代には、布または革製のグローブに卓球ラケットのラバーを縫い付けたものが主流になる。イボイボのついたラバーを細く切り、手のひらや指に、そしてパンチ力を高めるためにこぶしの部分に縫い付けるのである。イングランドの伝説的GK、ゴードン・バンクスは、こうしたグローブを着けて1970年のメキシコ・ワールドカップに臨み、ブラジル戦で左ポスト根本にたたきつけられたペレのヘディングシュートを右ポスト前からすばやく7メートル移動してはじき出したのだ。

 そして世界は1970年代半ばの「マイヤー・グローブ」をきっかけに次々と新しいアイデアを盛り込んだGK専用グローブの時代にはいる。「アディダス」は指の負傷を防ぐために中にプラスティックを入れたグローブを開発した。容易に想像されることだが、「指が曲げにくい」と不評だった。「プーマ」はひじ近くまである長いグロ-ブを発売し、アーセナル時代のペトル・チェフに着用させた。2013年、バイエルン・ミュンヘンのGKマヌエル・ノイアーは「アディダス」に「右手だけ4本指」のグローブを特注した。練習中に痛めた人さし指と中指を保護するためのものだったという。

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