■クライフの最初で最後のW杯

 私にとって、この大会のハイライトは、5試合目、ドルトムントで見た「オランダ×スウェーデン」だった。この試合も0-0の引き分けだったが、そんなこともまったく気にならないほどのスピーディーでエキサイティングな試合だった。

 このときのスウェーデンには、ラルフ・エドストレームとローランド・サンドベリというスウェーデン・サッカー史上最強の2トップがそろっていた。身長191センチのエドストレームが中盤に引いてボールを受け、エレガントなテクニックで攻撃をつくると、小柄なサンドベリが中央から左右のスペースに走り出てチャンスを切り開く。オランダの守備陣は一瞬の気の緩みも許さない緊張感をもって対応しなければならなかった。

 だが主役はもちろん、オランダであり、ヨハン・クライフだった。クライフが出場した最初で最後のワールドカップ。彼は自由に動き回ってオランダの攻撃を牽引した。クライフの動きに対応してオランダの選手たちは流れるようにポジションを取り、力強く効果的な攻撃を生み出した。1974年大会、もう半世紀以上も前のチームだが、このときのオランダは、現在のワールドカップにそのまま投げ込んでも優勝候補の一角になるのではないか―。

(4)へ続く
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