■最後の最後まで戦った酒井

 山口、そして小林祐希の見事なキックもあり先制点を奪った神戸だが、すぐさま同点に追いつかれる。山口の不用意な横パスを相手MFグスタボさらわれ、グスタボからの見事なロングスルーパスを受けたバロウが同点ゴールを決める。

 その後、神戸は押し込まれながら同点で試合を終えるが、延長前半13分、ゴールを決めたのは全北現代。左サイドのバロウが高く正確なクロスボールを送ると、右サイドから中へ侵入したグスタボに高い打点のヘディングシュートを決められたのだ。マークについていたのは酒井だったが、ミスマッチとも言えそうなグスタボの高さに屈した形となった。

 しかし、ピッチ上で最も戦っていた選手のひとりがその酒井だ。前半から果敢なオーバーラップを見せ、左サイドでチャンスを演出。それも相手を華麗に抜ききってクロスを上げるという感じではなく、とにかく前へ進み、クロスが上げられる隙ができれば、相手DFが跳ね返しにくそうなところに上げるという感じのものだった。

 そして、後半になると神戸の選手はデュエルで勝てなくなり、全北現代の選手がボールを保持し、前を向いてプレーするようになってしまったのだが、決して負けることなく戦えていたのが酒井、そして前出の山口だった。

 延長後半14分、この時間でも運動量が衰えることのない酒井が左サイドを前進し、左足でクロスを上げ、汰木のシュートにつなげる。続く16分も左サイドから酒井が右足でクロス。ここまでいい場面があまりなかったステファン・ムゴシャが頭で合わせるが、惜しくもゴール右へ――。

 ラストチャンスとも思えるCK。そこに至るまでに酒井は全北現代ゴール裏にいる神戸サポーターを、腕を回して煽り、さらに大きな声援を引き出していた。しかし……。神戸GKの前川も参加したコーナーキックからこぼれたボールは、ムン・ソンミンに渡る。ムン・ソンミンは神戸ゴールへと突き進み、無人の神戸ゴールへとボールを流し込んだのだった。試合を決定づける3失点目をなんとか防ごうと神戸ゴールに戻ろうとしたのも、酒井高徳だった――。

 酒井は試合後のインタビューで、ミスで同点ゴールを与えてしまったこと、ロングボール一辺倒の攻撃となりチームが間延びしてしまったことを悔いていた。酒井は最後にこう語った。「でも、最後まで全員あきらめず戦った結果だと思うので、悔しいすけど、残っているリーグに集中して頑張っていきたいと思います」

 現在、リーグ戦では16位、J2降格圏にいるヴィッセル神戸。ACL制覇の道はここで絶たれてしまったが、総年俸断トツ1位のJ1チームが、J2に落ちるわけにはいかないだろうー―。

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