■イングランド相手の下克上

 第2戦の相手はイングランド。「眠れる巨人」が重い腰をようやくあげ、ワールドカップに初出場。当然、優勝候補の筆頭とされていた。セミプロのアメリカとの試合は、楽勝だろうと誰もが予想した。しかしイングランドは初戦でチリに2-0で勝ったことで気が緩んだのか、8割方ボールを支配しながらGKフランク・ボルギを中心としたアメリカの守備を崩しきれない。そして前半38分、信じ難いことが起こる。

 アメリカのキャプテン、ウォルター・バーがペナルティーエリアの左外から放ったシュートをキャッチしようとしたイングランドのGKバート・ウィリアムズは、そのボールが突然消えたと思った。なんと、彼の前にアメリカのFWジョー・ゲイジェンズが飛び込み、その後頭部に当たったボールがネットを揺らしていたのだ。後半、イングランドの猛攻をGKボルギの好守に次ぐ好守でしのいだアメリカは、ワールドカップ史上最大の番狂わせと言われる勝利をつかんだ。

 もうすぐ1世紀に近づこうというワールドカップの歴史でも、間違いなくナンバーワンのジャイアントキリング。しかしアメリカは第3戦でチリに2-5で粉砕され、結局4チーム中最下位となって大会を去る。「20世紀最大の番狂わせ」と言われたイングランド戦も、アメリカ国内では大きな話題となることはなかった。そして次回大会以後、「北中米カリブ海に1枠」という制約のなか、アメリカは1986年大会まで9大会連続で予選敗退を繰り返すのである。

(3)へ続く
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