■欧州が陥る「妄信」

 そしてそのとおり、ジェフでは短期間のうちに選手たちの意識を改革し、彼らを生き生きとサッカーに取り組み、「サッカーで生きる」、本物のサッカー選手に生まれ変わらせた。彼らが見せるプレーは理屈なしに見る者の心を打ち、はずむような喜びをもたらした。金満クラブでスターを並べて争っている監督との比較などしてほしくないというオシムさんの気持ちは、よく理解できる気がした。その後、果てしなく続くリハビリ生活のなかで、オシムさんは、「金満化」に進む一方の欧州サッカーをどう見ていただろうか―。

 もちろん、巨額投資によって現在の欧州サッカーにはハイレベルの選手が集まり、誰もが夢見るサッカーを実現しつつあるというポジティブな面はある。そのサッカーは、世界中のコーチやプレーヤーが指標として目指すべきものだ。しかしそのバックボーンが、オシムさんのような「魂の指導」ではなく、世界中からかき集めた放映権料という資金であることを忘れてはならない。そうした状況は、多く稼げば稼ぐほどサッカーの真理に近づくことができるという「妄信」に変わり、そしてほどなく、稼ぐこと自体が目的となる。

 

(2)へ続く
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