アーセナルの名を聞いて激怒したオシムさんが抱いていた志【欧州はなぜ世界のサッカーに責任をもとうとしないのか】(1)の画像
オシムさんが日本を選んだ理由をよく考えるべきだ 撮影:渡辺航滋

 サッカーの世界は膨張を続けている。ヒエラルキーの頂点に立つ者たちは、強欲に世界中から搾取を続ける。その姿勢は正しいものなのか、サッカージャーナリスト・大住良之が問いかける。

■オシムさんの怒り

 イビチャ・オシムさんの急逝は大きな衝撃だった。2007年秋に倒れられて以来長い闘病生活だったが、オシムさんと定期的にコミュニケーションをとっていたジャーナリストの田村修一さんによれば、オシムさんの頭脳明晰さや言葉の鋭さ、奥深さは、最近も変わることはなかったという。日本から遠く離れているとはいえ、これからも日本のサッカーを見守り、叱咤激励してくれると思っていただけに、私にとっても、喪失感は小さくない。

 私には、オシムさんをひどく怒らせてしまった苦い経験がある。あるインタビューのなかで、「サッカー哲学」というようなものを聞きたいという思いに駆られ、こんな話をした。

 「アーセン・ベンゲルがこのようなことを言ったと読んだことがあります。『サッカーのコーチの最も大事な仕事は、プレーヤーのサッカーを愛する気持ちを常に思い出させ、それをさらに強めさせることだ』…」

 この後に「あなたは、サッカーのコーチの最も大事な仕事は何だと考えますか」と聞きたかったのだが、私の言葉が切れたところで通訳にはいってくれた間瀬秀一さんの言葉を聞きかじるや、オシムさんが激怒した。

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