■パスポートの衝撃

 さて、3時間の飛行ですから、離陸後しばらくするとパキスタンの入国カードが配られてきました。入国カードなどというのは、どこの国でも大差ありません。氏名や生年月日、パスポート番号などを書き込んでいくだけです。

 すぐに記入を終えて、僕はボールペンをポケットに戻しました。

 すると、隣席のパキスタン人の爺さんが「俺のも書いてくれ」と言います。そうです、彼は文字の読み書きができないのです。

 そこで、僕は彼のパスポートを受け取って記入を始めました。パキスタンの共通語はウルドゥー語ですが、公用語は今でも英語なんだそうです。そうでないにしても、パスポートには必ず英語で記入がありますから、問題はありません。

「なになに、この爺さんの名前は……」

と、僕はまず彼の氏名を入国カードに記入しました。

 そして、次に生年月日欄に目を移しました。

「なっ、な、なんと、この爺さん、俺より年下???」

 60歳過ぎの老人だと思っていたこの人物、実は40歳そこそこだったんです!

 心の動揺を抑えながら、なんとか彼の入国カードを書き終えてパスポートと一緒に手渡しました。にっこりと受け取ってくれました。

 ところが、「やれやれ、これで一仕事終わり」と思っていたら、飛行機の通路には行列ができていたのです。

「俺のも書いてくれ」と、パスポートと入国カードを手にした20人近いパキスタン人労働者たちが並んでいたというわけです。

  1. 1
  2. 2
  3. 3