こんな出来過ぎた物語を書く人はいないだろう。
83分にピッチに入って来た槙野智章に、惜別の何かを期待しても、運よくば浦和での最後のゴールを期待しても、それは追加点というのものはずだった。
国立競技場には57785人。こんな観衆の数を見るのはいつ以来だろうか。
その国立競技場を誰も追いつかないくらい疾風にように走り回って、ユニフォームを脱ぎ、ファンの前でもみくちゃという光景はさすがに想像できなかった。槙野は長い興奮と歓喜の後でレフェリーからイエローカードを受ける快感を味わっていた。
大分は粘るだろうな、とは思ったが、6分というあまりにも早い時間の失点があった。大分のディフェンダーに囲まれた関根貴大から戻されたボールを江坂任はゴールに蹴り入れた。
これで試合は、別の形になる。
0-0で試合を進めて勝機をうかがう、という片野坂知宏監督が描いていたプランは違うものになった。どこかで追いつかなければならないからだ。
その結果、大分が試合を支配しているように見える展開になった。FKの数は15で3つ、CKの数は5で浦和を1つ上回った。