■忘れ物を届けてくれたスペインの運転手

 僕は、あのブエノスアイレスのホールドアップ事件でパスポートを奪われた以外は、物を盗られたという経験はあまりありませんし、逆に僕が紛失しかけた物がちゃんと戻ってきたという経験もたくさんあります。世間では「忘れ物がちゃんと戻ってくるのは日本だけだ」といった伝説がまことしやかに伝えられていますが、そんなことはありません。

 1982年のスペイン・ワールドカップの時に、あの通りの名前も知らないタクシー運転手がいたバレンシアで、観光に疲れた僕はタクシーに乗ってホテルに戻ってきたときに、カメラを車内に忘れてしまったのです。なにしろ、バレンシア滞在中は暑かったので疲れ切っていましたから。

「さて、どうしようか……。ホテルで警察の場所を聞かなきゃ。でも、警察行っても無駄だろうな」と思ってしばらく立ち尽くしていたら、そのタクシーがすぐに一回りして戻って来て、「これオメエが忘れたんだろ?」と僕のカメラを返してくれたこともありました。

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