こんな日がある。
こんな日があってもいいじゃないかと思っても、こんな日はめったにやって来ない。
でも、こんな日があった。
大分のGK高木駿にとって2021年12月12日の等々力は忘れられない記憶になった。
よかったけれど、残念というのではない。よかった上に、結果までついてきた。
ペナルティ・シュート・アウトはGKにとっては、スタジアムの全員の視線を浴びる心臓破りの心理戦。だが、高木は意外とリラックスしていたという。
川崎7人目のキッカー山根視来のシュートを左に飛んで止めたが、すぐには喜ばずに立ち上がってレフェリーの方を見ていた。もしかしたら、何かあったのか、と疑ってしまうような間だった。センターサークルからもベンチからもチームメイトが駆け寄ってきた。ここで止めたら勝ちということを忘れてしまっていたらしい。
「ああ、そうか、勝ったのか、みたいな感じだった」
川崎に打たれたシュートは28本。コーナーキック14本。延長で1点を許したが、何かに憑かれたように高木はボールに向かっていた。味方が最後の最後で追いついてのPSOだった。