「土曜午後6時半キックオフ」の意味【ホームタウンがなければJリーグは生きられない】(3)の画像
Jクラブはホームタウンに育てられていく 撮影:中地拓也

 センセーショナルな見出しが、Jリーグファンを揺さぶった。「ホームタウン制度の撤廃」。このニュースは即時にJリーグによって否定されたが、時代に即した変化が必要であることは確かなようだ。では、Jリーグとクラブにとって「ホームタウン」とは何なのか。サッカージャーナリスト・大住良之が、改めてその核心を掘り起こす。

■「土曜午後6時半キックオフ」の意味

 巨大メディアにとっては、スポーツはプロ野球で「腹いっぱい」だった。そこに新しいプロサッカーリーグがはいる余地はなかった(読売グループのようにそれをもくろんだ企業はあったが…)。そこでJリーグが打ち上げたのが、地域に立脚することだった。特定の企業のためのプロサッカークラブではなく、それぞれがよって立つ「ホームタウン」を代表し、ホームタウンの人びとにスタジアムに来てもらって経営を成り立たせ、その対価としてホームタウンの人びとに楽しみや喜びをもたらす…。

 いまでこそDAZNからもたらされる巨額(Jリーグとしては)な放映権料に支えられているJリーグだが、当初は放映権料など考慮外だった。

「テレビなどどうでもいい」 

川淵三郎初代チェアマンは、こう言ってはばからなかった。

「ともかく、スタジアムを満員にしたい」

 1991年の年末にJリーグは大がかりな調査を行い、試合のキックオフを「土曜日の午後6時半」と決めた。スタジアムを満員にするには、何よりもまずサッカーをプレーしている人びと、サッカー少年やサッカー少女に来てもらわなければならない。土曜日の午後は練習がある。日曜日は時間にかかわらず試合がある。プロリーグを見に行く理想の時間は、土曜日の夜だ。しかも終わってから食事を楽しめる時間だ。それが「土曜午後6時半キックオフ」の理由だった。

 土曜の午後6時半は、テレビにとっては非常に都合の悪い時間だった。民放では7時からが「ゴールデンタイム」と呼ばれる最も視聴率をかせげる時間だった。NHKは必ず午後7時からニュースを流さなければならない。どちらも都合が悪く、たとえば土曜や日曜の午後の試合を希望した。しかし川淵チェアマンは何よりも「スタジアムにきてくれるファン」を優先したのだ。

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