■世相を映し出す大会ポスター
それはともかく、世界のサッカーを統括する国際サッカー連盟(FIFA)は1904年の創立だからすでに117年の歴史があるが、もうすぐ(といっても9年後に)「百周年」を迎えるFIFAの大会がある。もちろんワールドカップである。1930年に第1回大会が開催されてから2018年のロシア大会まで21回の大会が行われ、次回、2026年の「カナダ・アメリカ・メキシコ大会」で第23回。そしてまだ開催国が決まっていない2030年の第24回大会は「百周年記念大会」ということになる。
その間、当然のことながらサッカーの試合以外に、もうひとつ、サッカーを離れてずっと続いてきたものがある。「大会ポスター」である。「ポスターは世に連れ、世はポスターに連れ」とはあまり言われないが、歴代大会の公式ポスターを見ると、時代時代の世相や流行などまで見えてくる気がするから不思議だ。
2018年のロシア大会では、奇抜なデザインが続いてきた近年の大会になく、なんとなくクラシックな感じのポスターが登場した。GKが画面の右上に飛んできたボールをストップしようとしているイラストレーションである。実はワールドカップのポスターにGKが登場するのは1930年の第1回大会、1954年の第5回大会以来、実に64年ぶり3回目のことなのだが、クラシックな雰囲気は、「ロシア構成主義」と呼ばれる1920年代からの旧ソ連時代からのデザイン様式の流れをくんでいるからだ。
グラフィックアーチストのイゴール・グロヴィッチは、1950年代から1960年代にかけてディナモ・モスクワとソ連代表のGKとして活躍したこの国の史上最高選手、「黒クモ」のニックネームで世界に知られたレフ・ヤシンをモチーフにこのポスターを制作した。ヤシンを「構成主義」ふうにしたのは、ヤシンが活躍した時代を思い起こさせるためだったのかもしれない。ヤシンの右手の先にあるボールもクラシックだが、そのボールの上半分にはロシアの地図が地球儀の一部のように描かれている。