サッカーのあるところ、蹴球放浪家・後藤健生あり。たとえ危険があろうとも、サッカーのためなら乗り込んでいくのがジャーナリストだ。ただし、「どうして来てしまったのか」と反省することもある。その理由は、時には試合内容であり、時には旅の内容となる。
前回は「小悪人」たちを撃退した時の話でしたが、時にはどうにも抵抗できない相手もあります。
たとえば、この「蹴球放浪記」の第10回に登場したピストル強盗。ピストルの銃口がこちらを向いていたのでは、抵抗することも逃げることもできません(追いかけることはできましたが……)。あるいは大勢に取り囲まれて押さえつけられてしまったとしたら、こちらがカンフーの達人か何かでなかったら、抵抗のしようがありません。
そんな「集団スリ」に遭ったのは2005年5月25日のことでした。場所はトルコの首都イスタンブール、アタテュルク・オリンピヤト・スタドゥ(オリンピック・スタジアム)。そう、リヴァプール対ACミランの、“あの”UEFAチャンピオンズリーグ決勝戦の試合後のことです。
僕は、CLの決勝はあまり見に行ったことがありません。大金を使って見に行っても、たった1試合しか見られないからです(ついでに他の試合も見ようと思っても、ほとんどの国のリーグ戦はもう終了している)。
この年も別に見に行く気はなかったのですが、準決勝が終わって決勝進出チームが決まった時に「どうしても現地に行ってみたい」という気になったのです。何故そういう気持ちになったのかは、今でも分かりません。とにかく、僕は衝動に駆られて早速UEFAに取材申請を出しました。