■感動的な歌声の共鳴

 当然、サポーターが『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』を歌うチーム同士が対戦することもある。さまざまな国際大会がある欧州では珍しいことではない。

 2003年3月13日、UEFAカップの準々決勝でセルティックがリバプールをホームに迎えた。混乱が懸念されるなか、セルティックは60歳のジェリー・マーズデンを招き、試合前にこの歌を歌ってもらった。リバプールのマフラーを首にかけたマーズデンがピッチ上で堂々とうたい上げるなか、両クラブのサポーターはそれぞれの応援マフラーを掲げ、声を合わせて大合唱した。

 同じような光景は、2016年のUEFAヨーロッパカップの準々決勝でボルシア・ドルトムントとリバプールが対戦したときにも見られた。「ジェリー・アンド・ザ・ペースメイカーズ」の歌声が流れるなか、スタジアムの北東側の2階席コーナーに押し詰められた数千人のリバプールのサポーターたちは、5万人を超す地元サポーターに負けないパワーで歌った。

 このシーンを初めてYouTubeで見たとき、私は大きな感動を覚えた。『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』は、ただ自チームを応援する歌というレベルを超え、世界中のサッカーファン、サポーターが「仲間」としてつながることができる歌になりうるのではないか、「You」が意味するものは、自分が応援するチームだけでなく、相手チームのサポーターでもあるのではないか―。世界をつなぐ「連帯」の歌になるのではないか。

 そのとおり、『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』は、チームの応援歌としてだけでなく、さまざまなシーンで使われるようになる。

 1985年にイングランド3部の「ブラッドフォード」というクラブの試合で火事が起こり、旧式の観客席があっという間に火に包まれて56人が亡くなるという惨事が起きた。支援金、見舞金を集めるために、「ザ・クラウド(民衆)」という臨時グループがつくられ、ジェリー・マーズデンやポール・マッカートニーが参加、『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』を録音して発売した。このCDは2週連続でヒットチャートの1位を占めた。

 1989年のFAカップ準決勝でリバプールのサポーターが98人も亡くなるという大惨事(ヒルズボロの悲劇)が起きたときには、イタリアで感動的なシーンが見られた。事故の4日後に行われた欧州チャンピオンズカップの準決勝、ACミランレアル・マドリードで、試合前に黙とうが行われた後、ACミランのサポーターたちが『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』を大合唱し、それにレアルのサポーターも呼応したのだ。

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