■「スペースとは、できたら消えていく泡のようなもの」

片山「サイドのところを含めて、『2対1の明確性をつくる』ということが行われていなかったし、その意識も希薄のように感じました。たとえば、サイドでボールを受けた選手が外にドリブルして相手の1人を引き出し、そこに寄っていって2対1の状況をつくる。あるいは、パスを出した後に寄っていって2対1をつくるのか、出してリターンをもらって相手が寄ってきた瞬間に2対1をつくるのか——。さまざまな手法がありますが、そうした手法を使って2対1をつくるという狙いがまったく感じられませんでした」

——なるほど。

片山「これはなでしこジャパンだけでなく、男子代表でも感じたことなのですが、ポジションにこだわり過ぎるのか、『トライアングルをつくる』といっても、その形が固定的で、パスは回せても、少しも相手の守備を崩すことにつながっていない。たとえばサイドでボールをもったとき、サイドバックがウイングにボールを渡すと、その斜め後ろにつき、中央からはボランチのひとりがサポートにきて『三角形』をつくりますね。でもこの形ばかりでは相手は動かない。私は『三角形の反転』と表現するのですが、ウイングが中にはいり、サイドバックがタッチライン際、ボランチがその前のタッチライン際というように、逆の三角形にしたら、相手は混乱します。あるいは、『渦』をまくように、ウイングが中にはいり、サイドバックがタッチライン際に前進、ボランチが後ろにはいっていくような形でも、相手の守備を動かし、そこに隙をつくることができるはずです。

——今回のオリンピックでは、日本が出す縦パス、いわゆる「くさび」のパスに対し、非常に厳しく当たられていたという印象があります。あのパスが通らないと、攻撃は進みませんね。

片山「これも男子に共通する問題点だと思いましたが、『空間管理』ができていない。『空間』というのは『スペース』のことですが。サッカーは11人対11人で、どちらかの数が多いわけではないのに、不思議にスペースができる。その根本的なところが理解されていないように思います。スペースは、できたらどんどん消えていく。泡のようなものです」

——スペースをいかにつくり、いかに使うか。それが「くさび」の縦パスを通すコツということですね。

片山「そのパスは、DFラインとボランチの間、人と人の間で受けるわけですが、最初からそこに立っていても、パスがはいった瞬間につぶされます。今回のオリンピックでは、男女ともそうしたケースが多かった。とくになでしこジャパンは、ほとんどそうしたパスが機能しなかったように思います。たとえば、パスがはいる前にそこにいる選手がスペースから出て、別の選手がはいってきたときにパスが出るようにする。スペースから「消える」ことで相手の意識が少しぼやけた瞬間に他の選手がそこにはいって受けられれば、前を向くことができます。こうしたプレーは、サッカーの基本とも言うべきもので、ドイツではU−7とか、U−9といった年代から練習しています」

——スペインの男子は、そこに入れる、そこに入れさせないという攻守両面での意識が非常に高く、それが日本との大きな差になって現れていたと思います。

片山「人の動きについては、『2人目、3人目の動き』とよく言われますね。でも『空間の2つ目、3つ目』ということはあまり言われないし、意識されていない。将棋やチェスと同じで、狙いとしたパスを通すためには布石が必要で、とりあえず見えたスペースにパスを入れていくようなプレーでは、最終的にゴールにたどり着くことができない。フィニッシュの形をつくるためにここにパスを入れたいというところをまず閉じさせておいて、その前のパスで相手をゆさぶり、狙う場所を空けさせた瞬間に使うような仕掛けが必要になります」

※第2回につづく
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