■1メートルの間を通し、受けたインサイドハーフは前を向く

 攻撃やビルドアップの局面でも、スペインの選手たちに感心させられました。彼らはどんなときでも前を向く努力をするのです。つねに中間ポジションに立ち、半身の体勢を取り続け、角度をつけて受けようとすることで日本がマークしにくい状況を作っていました。

 また、出し手もどこにでもパスを出せるようなボールの持ち方をして、置く角度まで考えていました。とくにCBのパウ・トーレスとエリック・ガルシアは、身体を開き過ぎずにちょっと内側にボールを置く。そうすることで、どこにでも逃げられる。CBが体を開いてボールを外へ持ち運び過ぎると、コースは外しかなくなり、相手は限定しやすくなるのですが、彼らは内側にボールを置くので内にも外にもパスが出せました。

 さらに外にしか出せない局面では、外に出したあとにすぐさまサポートの角度をとってボールを受けに入り、日本の前線の選手を守備に走らせていました。両CBを含めたスペインの選手たちは、どこにでも蹴られる状態をナチュラルに作れるのです。

 中盤の選手たちも、前を向くことを前提としたポジション──中間ポジションを取る。守備の局面で4-4-2になるこの日の日本なら、4-3-3の陣形は中間ポジションを取りやすい、というのはありましたが。

 前を向くといった基礎的なレベルが高いだけでなく、パスを出す技術も卓越している。通してこないだろうというところを、余裕で通してくる。日本が1メートルでも開けたら、その1メートルの間を通してくる。インサイドハーフはそこで受けて、前を向いてくる。

 スキを見せたら一気に流れを持っていかれるということで、日本の選手たちは割り切ったのでしょう。前半の途中ぐらいからは、ボールを持たせることと引き換えにブロックの密度を上げ、最後のところを締める、ラインを深めに設定して失点をしない、ということに注力していきました。

 林大地がパウ・トーレスをマンマーク気味に担当し、2列目の左サイドの旗手怜央が右CBのエリック・ガルシアをけん制して、CBとSBを消すようになってから、少し守備が落ち着いていきました。彼らのリズムとテンポに慣れ、スペインの疲れも相まって、守備でリズムを作れるようになっていったのです。

 この日のスペインを相手にボール保持で互角に持ち込むのは、現段階では難しい。守備からという考え方は、勝ち筋としては正しかったと思います。完全に崩された言える場面は、GK谷晃生がラファ・ミルのシュートを止めた38分ぐらいだったのではないでしょうか。

 また、前半の30分過ぎからは、相手に慣れてきたことと連戦の疲労によりスペインがペースダウンしたこともあり、攻撃に出られるようになりました。押し込んだところからセカンドボールを回収する回数が増え、少しずつボールを保持する時間が延びて、攻撃に出ていける回数が増えました。前述したように、ひとつ目のプレスを回避することで、敵陣へ入ることができていたのです。

 将来的にスペインクラスのチームに勝つには、敵陣でプレーする時間を長くしなければならない。昨日に関して言えば、枠内シュートが1本ということで、その回数は増やさないといけません。たとえ少なくても、そのわずかなチャンスで得点を取りきる力も必要です。

(構成/戸塚啓)

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なかむら・けんご  1980年10月31日東京都生まれ。中央大学を卒業後03年に川崎フロンターレに入団。以来18年間川崎一筋でプレーし「川崎のバンディエラ」の尊称で親しまれ、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。現在は、育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注いでいる。

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