■あのペレのオーバーヘッドに、ハモニカのプレーまで!

 そしてペレである。彼はトリニダード・トバゴ出身の英国兵「ルイス・フェルナンデス」として最初のセレクションでチームに加わり、得意のボールリフティングでチームメートを感心させる。リフティングしながら「トリニダードでは、オレンジでやってたんだよ」というセリフは、貧しくてボールを買ってもらえなかったペレ自身の子ども時代の実話である。

 ミーティングのなかで、英国人であるコーチ兼キャプテンのコルビーが黒板を使いながら、「パス、パス、パス、ウイングがもったら時間をかけずに中央に送れ」と指示をすると、ペレが歩み出て、自陣ゴール前からくねくねと線を描きながら(ドリブルの意味である)相手陣に進み、最後は相手ペナルティーエリアに迫り、シュートを決めるという作戦を話し、「これがいちばん簡単だ」と話すシーンは笑える。夜の宿舎内では、ペレが吹くハーモニカの音色にみんなが癒やされる。ペレのハーモニカまで聞けるのだ。なんとお得な映画だろう!

 試合では、前半相手のラフプレーで左肩を痛めたペレが更衣室に去るが、キャプテン兼監督のコルビーは交代選手を入れず、10人でプレーを続けることを選択する。そして後半の35分過ぎ、残り10分になったタイミングでペレはピッチに戻る。左腕を体につけたまま残り時間をプレーしたのは、1970年ワールドカップの準決勝で左肩を脱臼し、左腕をテープで体に固定してプレーを続けたベッケンバウアーへのオマージュだっただろうか。

 だがこの状態でも、彼は最後の最後に世界で最も美しいオーバーヘッドキックを見せるのである。ペレはこのとき41歳だった。ボールの持ち方、ターン、瞬間的な体の入れ方など、引退してから間もないペレのプレーは、この映画のハイライトと言ってよい。

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