■衰弱したイランをオーストラリアが蹂躙

 オーストラリアは、ひとつの時代のピークにあった。2トップにハリー・キューエルとマーク・ビドゥカというイングランドのプレミアリーグで活躍する危険極まりないアタッカーを並べ、率いるのはイングランド代表監督も務めたテリー・ベナブルズである。テヘランのアザディ・スタジアム、12万8000人という信じ難い数のサポーター(その全員が男性だった!)の前で、オーストラリアは前半19分にキューエルが先制。前半終盤にイランのホダダド・アジジに同点ゴールを許したが、「1-1の引き分けで十分」とばかりに、後半は無理をせず、そのまま試合を終わらせた。

「ホームでは必ず勝つ」。1週間後の第2戦は、ベナブルズ監督のプランどおりの始まり方だった。メルボルンのクリケット・グラウンドに詰めかけた8万5022人、オーストラリアのサッカー史上最大の観客は、オーストラリアが見事なパスワークとハードタックルでイランを蹂躙するのを見た。1974年のワールドカップ初出場以来、24年ぶりに訪れた出場のチャンス。その決定の瞬間が訪れるのは時間の問題と思えた。

 オーストラリアは洗練されたパスワークで立ち上がりからイランを圧倒。前半32分にキューエルが角度のないところから決めて先制すると、後半3分にはバーに当たって跳ね返ったボールを、1点目のアシストをしたアウレリオ・ビドマーが叩き込み、2-0と決定的な差をつけた。実際のところ、この時間帯までイランは攻撃らしい攻撃を繰り出しておらず、ハーフラインも越えられない状況で、試合展開から見ても勝利は確定したかと思われた。

 午後8時15分キックオフの試合。後半30分、午後10時を回ると、夏を迎えているメルボルンの熱気も去り、すり鉢のようなクリケット・グラウンドのピッチにも涼しい空気が漂い始めた。しかしスタンドの熱気は最高潮に達していた。もう勝利は間違いない。オーストラリアは24年ぶりにワールドカップに行く!

第2回につづく
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