■本家は湘南ベルマーレのDFみたい
この理解が正しいことを確信したのは、1994年ワールドカップのときだった。大会の地元組織委員会委員長を務めたアラン・ローゼンバーグ氏が、演説のなかで繰り返し「サッカー」と発音したのだ。いや、日本語の「サッカー」というようななまやさしいものではない。彼の発音は、「サ」に極端に強いアクセントが置かれ、ほとんど「坂」に近かった。湘南ベルマーレのDFみたいだ。
日本語の「サッカー」は、まあ、ちょっとした誤解というか、サッカーが英国生まれであることを忘れ、アメリカ英語もイギリス英語も同じと思い込んだところから始まったものなのである。しかしそれが1世紀も使われ、しばらくは「蹴球」に押されていた時期もあったものの、選手やファンが語るときには常に、そして圧倒的に「サッカー」であることを考えれば、それはそれでかまわないのではないかと、私は思っている。カタカナで書く「サッカー」は、間違いなく日本語だからだ。
私がサッカーを始めた1960年代には、「サッカー」という言葉がメディアに登場することは非常にまれだった。完全な「マイナー競技」だったからだ。新聞や雑誌を読みながらごくたまに「サッカー」という言葉が出てくると、「おっ!」と腰を浮かす。だがそれはたいてい、パジャマなどに使われる通気性の良い生地の話で、「な~んだ」とがっかりするのである。オールドファンなら、誰でも経験のある話だろう。