■ヘディングがシェフィールドで生まれた理由
いまではサッカーに欠くことのできない技術であり、サッカーの魅力のひとつでもあるヘディングだが、近代スポーツとしてのサッカーが成立した1863年当時のロンドンを中心としたゲームにはまだなかった。ロンドンとともにサッカーの先進地だった中部イングランドのシェフィールドで生まれたのがヘディングだった。
当時のルールでは、空中に高く上がったボールは、手でキャッチすることができた。「フェアキャッチ」と呼ばれ、ボールをキャッチした選手はそのままボールを手にもって前進することもできた。さもなければ、かかとを使って「マーク」し、適当に下がった地点から「フリーキック」をすることもできた。ほとんどラグビーと変わらなかったと思えばよい。
一方、ロンドンに設立された「フットボール協会(FA)」にまだ加盟していなかったシェフィールドでは、「フェアキャッチ」は許されていたが、キャッチしきれずボールを前にはじいてしまったら反則ということになっていた(ラグビーの「ノックオン」である)。そこで考えられたのが、手ではなく、頭でボールをはじくプレー、すなわちヘディングだった。これらの経緯については、試合がなぜ90分間なのかについて取りあげたこの連載の第55回(4月21日公開)でも書いた。
高く上がったボールに対し、ただヘディングを禁止したら、胸や肩に当ててコントロールするか、低くなったところかグラウンドに落ちてから足でコントロールするかしかない。これだと、落下地点ではげしいもみ合いになり、サッカーのスピード感は薄れてしまうだろう。あるは、ゴール前では「オーバヘッドキック合戦」になるかもしれないが、これはこれで危険性が高い。