■レフェリーの笛が多く吹かれた理由
川崎の選手たちは、試合が始まるとすぐにそうしたことを感じ取った。いや、相手がよりアグレッシブに来るであろうことを試合前から想定していたのかもしれない。
いずれにしても、名古屋の戦い方が“ファーストレグ”とは違っていることを確認すると、川崎の側もすぐに戦い方を変えたのだ。
つまり、早いタイミングで名古屋のゴール前にパスを送り込むのではなく、名古屋が固めているピッチの中央を避けて左右のスペースを使うようにしたのだ。
「スペースを使う」と言っても、「サイドから早めに中央にボールを入れる」という意味ではない。サイドでボールを動かし続け、そしてロングボールを使ってサイドチェンジして逆サイドでまたボールを動かす。そうやって、外のスペースでボールをキープしてアグレッシブにボールを奪いに来る相手をいなしながら反則を誘ったのだ。そうして、FKを獲得したり、あるいは外のスペースの深い位置までボールを運んでCKにしたりする。そして、リスタートからの攻撃を模索したのだ。
公式記録を見ると前半の川崎は5本のCKと7本の直接FKを得ている。極端に大きな数字ではないが、そのセットプレーの多くは前半の早い時間帯に集中して獲得したものだった。
西村雄一主審の笛が鳴って試合が中断する回数が多かったが、それもいつもの川崎の試合とは違っていた。
そして、12分には田中碧の右CKから谷口彰悟がヘディングでファーサイドにいた家長昭博につないで最初の決定機が生まれた(名古屋がCKに逃れた)。そして、30分にはレアンドロ・ダミアンからのパスが流れたボールを追った三笘薫がドリブルで深い位置まで持ち込んでCKを獲得。再び田中が蹴った左CKをDFのジェジエウがヘディングで直接決めて、川崎は貴重な先制ゴールにつなげたのだ。
豊田スタジアムでの試合のようにチャンスの山を築いたわけではない。だが、セットプレーを生かすという狙い通りの形でCKから得点が生まれたのだ。
相手の出方を見極めてすぐに選手全員が戦い方を修正し、そして、必ずしも押し込んだ展開ではなかったものの、狙い通りの形でゴールを決めてしまった川崎の試合運びのうまさには感服せざるをえない。チームの完成度の高さの表われであり、また様々なプレーができ、すぐにプレーを切り替えることができるだけの技術レベルの高さのおかげでもあろう。実に引き出しが多く、そして適切にどの引き出しを開けるかを選択できるのだ。