■テレビ放映にちょうどいいサイズ

「90分」には、今日的な意味がある。2時間のテレビ放送枠にきれいに収まることである。前後半のアディショナルタイムと15分間のハーフタイムを入れても、2時間の枠でほぼぴったりと収めることができる。テレビ放映はサッカーの世界的な発展に多大な影響を与えたが、サッカーという競技は、テレビにとって、番組制作上も、元来、非常に都合の良いコンテンツだったのだ。

 トライアスロンという競技がある。本来は「アイアンマンレース」と呼ばれ、スイム3.8キロ、バイク180キロ、ラン42.195キロという、まさに「鉄人レース」だった。東京のレインボーブリッジ間の海を1.5往復泳ぎ、東名高速を東京から静岡県の清水インターチェンジまで自転車で走り、そのままフルマラソンを走る……。世界最高記録は7時間51分13秒。まさに「鉄人」だ。だがまったく「テレビ的」ではない。

 テレビ放送に乗るには、2時間程度の競技でなければならない。そこで「スタンダード・トライアスロン」という距離が考案され、スイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロ、合計51.5キロという形にして約2時間の競技とし、2000年のシドニー大会からオリンピックの正式種目になった。

 サッカーは、そんな苦労をするまでもなく、2時間のテレビ放送枠にちょうどよく収まる。これが100分ゲーム(50分ハーフ)だったら、少し苦しいことになっていただろう。だがもちろん、サッカーが90分ゲームになったのは、そんな理由からではない。「90分」は、テレビ誕生などよりずっとずっと早く、19世紀から行われていることだからだ。

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