■聞いてないよ。放送事故まで一直線!

 僕はスカパー!のコンフェデ中継の解説の仕事をしていたのです。しかし、担当は翌日の準決勝2試合目、メキシコ対アルゼンチンだったはずです。

「えっ、今夜?」と僕。

「あれ、連絡行ってませんでしたか? 予定が変更になって、今夜の試合をお願いしたいと思ってたんですけど……」

 そんな連絡はもらっていませんでした。「もう間に合わないよ」と僕。

 僕が行かないことにはいわゆる「放送事故」ということになってしまいますが、しかし、18時までにニュルンベルクのフランケンシュタディオンに着く方法はあるのでしょうか?

 スカパー!の担当者はフランクフルト空港から飛行機があるか調べてくれましたが、フランクフルトからニュルンベルクまでは直線距離で200キロもありません。そんな近距離便はありません。

 困っているとちょうど車掌がやって来たので、ニュルンベルクまでなんとか早く着く方法はないか尋ねてみました。車掌が言うには「フランクフルトからの列車が遅延しとれば、それに乗り継げる。調べてやるけん待っとれ」と言って車掌室まで戻っていきました。たしかに、列車の遅延が日常茶飯事のヨーロッパならそんなこともあるかもしれません。

 ただ、残念ながら、ここはイタリアではありませんでした。戻ってきた車掌はフランクフルトからの列車は通常通りに運行しているようだから、乗り継ぎは無理だと言います。

 さあ、絶体絶命です……。

「そうだ(!)」。僕は気が付きました。「フランクフルトからなら200キロ弱」ということは、タクシーで飛ばせばなんとか間に合うんじゃないだろうか? なにしろ、ドイツはアウトバーンで有名な国です。「よし、タクシーに乗ろう」と思って、一応担当者に「タクシー代出すよな?」と確かめて、フランクフルトからタクシーに乗ることにしました。

 しかし、フランクフルトのタクシーはニュルンベルクまですぐに行ってくれるものでしょうか? そんな長距離を乗ったことがないので分かりません。タクシー・ドライバーが自分の街の外に行くのを嫌がる国も結構あります。他の都市ではライセンスの関係で客を乗せられないので、帰りは空車で帰ってこなければならないからです。

「そうだ(!)」。僕は再び気が付きました。

 今乗っている列車はフランクフルト中央駅の前にフランクフルト空港に停車します(フランクフルト空港は地下から高速鉄道に直接乗れるのです)。空港タクシーなら長距離客にも慣れているに違いありません。それに、空港からならアウトバーンに乗るまで市街地の渋滞を抜ける必要もないはずです。

 それに気が付いたのは空港駅のすぐ手前でした。慌てて荷物を持って列車を飛び降りて駅の外に出ると目の前にタクシーが停車していました。「ニュルンベルクまで行って、ビッテ」と言うと運転手は「ヤー!」と二つ返事。

 さすがにドイツのアウトバーンです。タクシーは1時間半ほどでニュルンベルクに到着しました。余裕です。もっとも、フランクフルトの運転手はニュルンベルク市内の地理を知らず、おまけに試合前なのであちこちで交通規制があって多少は手間取りましたが、試合開始30分前には放送ブースに到着。

「大変だったみたいっすねぇ!」と八塚浩アナウンサーがちょっと甲高い独特のトーンで迎えてくれました。

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