後藤健生の「蹴球放浪記」連載第54回「さっすが、ドイツのアウトバーン」の巻の画像
ワールドユース選手権のADカード 提供:後藤健生
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またも災厄が襲ってきた。オランダでのんびり過ごしているのに、その日の夜のドイツでの試合で実況中継の解説をしろと、携帯電話の向こうでは言うのだ。聞いてないよ! 果たして試合開始に間に合って、絶体絶命のこの危機を回避することはできるのか。その顛末やいかに――。

■乗車予定の列車に置き去り!

 2005年6月25日の朝、僕はオランダのユトレヒト駅にいました。前日はこの街でワールドユース選手権準々決勝のモロッコ対イタリア戦を観戦。この日は、隣国ドイツのニュルンベルクで行われるコンフェデレーションズカップの準決勝、ドイツ対ブラジルの試合を観戦しようというのです。

 なんと、オランダとドイツでFIFA主催の2つの大会が並行して開かれていたのです。僕は両国を行ったり来たりしながら、両方の大会を観戦していました。

 コンフェデにはジーコ監督率いる日本代表が出場していました。6月8日にバンコクで行われた無観客試合で北朝鮮を破ってワールドカップ予選突破を決めてそのままドイツに乗り込んだ日本代表でしたが、1勝1分1敗。得失点差で3位になってグループリーグ敗退に終わりました。

 一方、ワールドユースに出場していたUー20日本代表(大熊清監督)は本田圭佑、家長昭博、平山相太という豪華な攻撃陣を有するチームで、見事に(?)ラウンド16進出を果たしまた。「?」が付いているのは、初戦でオランダに1対2で敗れた後、ベナンとオーストラリアと引き分けて1敗2分という成績だったからです。開催国のオランダが3勝し、他の試合が全部引き分けに終わったので3チームが勝点2で並び、オランダと1点差の負けだった日本が得失点差で2位に入ったというわけです。

 ちなみに、このチームは世界大会の予選を兼ねた2004年のアジアユース選手権でも、準々決勝以降1つも勝たないで勝ち上がってきたとんでもないチームでした。準々決勝のカタール戦はPK勝ち、準決勝の韓国戦はPK負け、シリアとの3位決定戦はPK勝ちで3位に入ったというわけです。

 そして、ワールドユースのラウンド16でのモロッコ戦も0対0のまま90分が終わり、一瞬「またも得意のPK戦勝ちか」と思わせましたが、アディショナルタイムに失点して“怪”進撃はここまでで終了しました。

 ちなみに、ワールドユースはアルゼンチンが優勝しましたが、その中心選手はリオネル・メッシという名の体も声も小さなひ弱そうな少年でした。

 さて、話を6月25日に戻します。時間に余裕を持ってユトレヒト駅に着いて、さて列車に乗ろうと思ったのですが、なんと僕が乗るつもりの列車はもう出発してしまっていたのです。駅員に聞くと「週末は線路の工事があってな、いつもとちゃう路線を通るんで出発時刻が変わってるんや」と言うのです。

「ほら、あそこにちゃんと書いたるやろ」と駅員が指差したところを見ると、小さな紙に確かに注意書きが書いてありました。ただし、オランダ語だけで。

 仕方がない、次の列車に乗るしかありません。予定より約1時間の遅れです。ニュルンベルクまではデュッセルドルフとフランクフルトで乗り換えがあります。出発が1時間遅れると予定していた乗り継ぎができないので、18時の試合開始には間に合いそうもありません。

「ま、しょうがない。途中からでも見ればいいや」

 そう思ってのんびりと車窓を眺めていると、突然、携帯電話が鳴りました。

 スカパー!の担当者からでした。

「今夜の中継、よろしくお願いします」と言うのです。

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