■日本のオーバーヘッド・マイスター
日本サッカーリーグ(JSL)でヤンマーの釜本邦茂がごくたまにこれでシュートを試みたが、日本リーグで釜本がこれで決めた記憶はない。釜本のオーバーヘッドといえば、1972年のムルデカ大会(マレーシア)のカンボジア戦だ。右からの高田一美のクロスを受けて鮮やかなオーバーヘッドシュート。試合が行われたクアラルンプールでは、オールドファンがいまでも話題に上らせるという。
JSL随一の「オーバーヘッドキック名人」と言えば、古河の宮本征勝あるいは三菱の片山洋だろう。ふたりともサイドバックであるのは興味深い。片山はアクロバチックなプレーを得意とし、私は彼がジャンプボレーキックやオーバーヘッドキックでクリアするのを何回も見た記憶がある。
当然のことながら、インサイドキックもまともにけることができない初心者にもかかわらず、中学生の私は家で何回もこのキックの練習をした。お手本は、宮本征勝が『サッカー・マガジン』誌上で見せてくれた連続写真である。夜、部屋に布団が敷かれると、そこで繰り返し練習し、母に叱られたが、私はどうしてもこのキックがしたかった。
体を後ろに倒しながらまず左足を引き上げ、右足でジャンプしてそのまま右足を振り上げてボールをとらえ、左足を下げる(この動きから「バイシクル=自転車」の名がついた)。そしてキックし終わったら、両手で衝撃をゆるめながら、背中から着地する――。原理は難しくはない。だが布団を敷いてあることで地面に落ちる痛さの恐怖心はないはずなのに、どうしても背中からではなく、左足から着地してしまうのである。何カ月かやったが、かっこいいキックができないことがわかったので、結局あきらめた。