大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 連載第49回「必ずしも必要ではないが、絶対に不可欠なもの」(前編)の画像
白い「亀甲編み」のゴールネット。シューターにとっていい目標になる(ベイルートで)。(c)Y.Osumi
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VARが登場する130年ほど前に、ゴールを判定するために発明されたもの――。そこに秘められた先人の意図、思いはいかなるものだったのか。サッカーにおいて“必ずしも必要ではないが、絶対に不可欠なもの”という、あたかもスフィンクスの謎のような存在についての、唯一無二の論考をお届けする。

■あれを変えろ、とジーコは言った

 1991年にジーコが日本にきたとき、「あれは変えなければならない」と強い口調で言ったものがある。ゴールネットである。

 日本サッカーリーグ(JSL)2部の住友金属の「Jリーグ参入」を後押ししたのは、茨城県による「全屋根付きのサッカー専用スタジアム建設」の約束だった。しかし実際にJリーグ入りが決まると、住友金属としてはチーム強化にも手をつけなければならなくなった。そしてJSLの最終シーズンを前に、すでに引退してブラジルのスポーツ担当大臣となっていたジーコの招聘に成功した。

 当時38歳。引退して1年半の月日がたっていたが、ジーコのテクニックとサッカーに対する情熱に衰えはなかった。小さく粗末なスタジアムで、ときによって数百人という観客の前で、ジーコは全力を尽くし、圧倒的なプレーを見せた。そして21ゴールを挙げて得点王となり、住友金属を2位に引き上げた。通常なら、堂々とJSL1部に昇格できる順位である。

 そうしたなか、ジーコはあることに気づいた。日本のスタジアムのゴールネットが一様に黒いことだった。

「ゴールネットは重要だ。白く、目立つものにしなければならない。ネットというのは、シュートがはいったかどうかをわかりやすくするだけでなく、『あそこに入れるんだ』という目印にするものだ。だから目立つ白でなくてはならないんだ」

 川淵三郎チェアマンをはじめ、多くの人がその言葉に納得した。そして1993年にJリーグが始まったときには、使用する全スタジアムのゴールネットが白くなっていた。

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