■黒かったネットの意外な理由
黒いゴールネットには理由があった。第一は汚れが目立たないことだ。張りっぱなしのネットも多い。白いネットだと、土ぼこりなどですぐに色がくすんでしまう。といって、洗濯するのも簡単ではない。
もうひとつの理由は、意外なところからの要望だった。試合の報道に当たるカメラマンたちである。ゴール裏から、あるいはゴールの横からネット越しに写真を撮るとき、当然ながらピントはネットの向こうのプレーヤーたちに合わせることになる。こうすると、黒いネットはほとんど見えなくなる。しかし白いネットは膨張して写真にうるさく写り込む。ネット越しの撮影には、白いネットは「天敵」だった。
カメラマンたちの嘆きをよそに、Jリーグ時代のネットは白くなった。私の友人のひとりは、「ジーコのネット論」のさらに上を行く「白黒ネット論」を展開した。サイドネットの、しかもゴールの内側だけ白くし、あとは黒くするというのだ。ゴールを見たとき、シューターは逆のサイドネットに意識が行き、よりシュートが正確になり、得点が増えるはずというのだ。これが実現していたら、カメラマンたちは喜んだことだろう。
言わずもがなのことを言っておくが、ゴールネットに突き刺さることが得点の条件ではない。得点とは、両ゴールポストとゴールバー、そしてその下のゴールラインに囲まれた空間を完全にボールが通過したときに与えられる。サッカーを知っている人は「当たり前」と思うかもしれないが、初めてサッカーを見る彼女をスタジアムに連れていったときなど、それを教えてあげると、「へえ~」というような顔で驚き、尊敬のまなざしを向けてくれる(かもしれない)。