「大久保嘉人の春」—振り切れそうなヨシ・メーター(1)「常識が通用しないストライカー」の画像
ケタ違いの活躍を見せる大久保嘉人(セレッソ大阪) 撮影/原壮史

怪物が目覚めた。史上初の3年連続Jリーグ得点王(2013−15年)を記録した不世出のストライカーが、そのゴールを渇望する心に火を付けた。J1リーグのすべてのクラブのGK、DF、そして監督とサポーターは、震えて待たなければならない。

■破天荒な38歳の輝き

 Jリーグ序盤の最大の驚きは、セレッソ大阪FW大久保嘉人のパフォーマンスだ。

 1982年6月9日生まれ、38歳。だがそのプレーの輝きは、20代の終わりから30代のはじめにかけて川崎フロンターレで3年連続Jリーグ得点王という破天荒な活躍を見せたころに負けてはいない。それから数年間のうちにJリーグのサッカーが様変わりし、どのチームも「前線からの強いプレス」を志向するなかで、大久保がやすやすとその戦術を実行し、なおかつ川崎時代のゴールへの効率性を失っていないのは、驚き以外の何ものでもない。

 ことし1月、大久保がC大阪に移籍することが発表されたとき、正直なところ、「C大阪は何を考えているのだろう」と耳を疑った。大久保は2017年に川崎からFC東京に移籍するとともに輝きを失い、翌2018年には川崎に戻ったもののすでに1年前の得点力は見られなかった。そして6月にジュビロ磐田に移籍。だが3年連続得点王になったころのパフォーマンスは見せられず、磐田は2019年にJ2に降格、2020年はJ2の東京ヴェルディでプレーしたが、19試合に出場したものの、ケガもあってシーズン後半は交代出場が多く、長崎の国見高校を卒業してプロになってから初めてシーズン得点ゼロに終わっていた。

 大久保には謝らなければならないが、彼のピークはすでに過ぎてしまっていると、私は考えていた。J1通算得点185という大記録をもつ大久保だが、そのマジックのようなシュート力も、もうJ1の舞台で発揮されることはないだろうと思っていたのだ。実際、大久保自身も、昨年の後半には「引退」を考えていたらしい。

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