■すべての試合と練習で厳守すべきこと

 結局、UAEは1−0のまま勝利をつかみ、準決勝へとコマを進めた。そしてまた、信じ難いことが起こった。わずか中3日の準決勝カタール戦に、ジュマは先発し、フル出場したのだ。日本サッカー協会が2016年に発表した「脳震盪に対する指針」では、少なくとも1週間はかかる「復帰プログラム」が必要とされている。UAEのチームドクターはどんな意見をザッケローニ監督に言ったのだろうか。

 今回のIFABの新ルール「試行」は、こうした状況を回避するためのものだ。人命第一の立場から、脳震盪を起こしたプレーヤーをそれ以上プレーさせないこと。しかしそのプレーヤーが外れることによって戦術的な不利な状況が生じないようにするため、特別な交代を認めようというのである。

 だが、試合や練習の場に資格をもったドクターがいない場合にはどうするのか。脳震盪かどうかの「診断」は、経験を積んだドクターでさえ簡単ではないという。サッカーの試合で、チームドクターが帯同することなどプロにしかできず、トップクラス以外で日常行われている練習や試合では、その場にドクターがいることも期待できない。そうしたときにたとえばバッティングのようなアクシデントが起きたら、脳震盪かどうか、どう判断すればいいのだろうか。

 IFABの新ルール試行案に対し、日本では、トップクラスの大会ではそれに応じることにしつつ、日本サッカー協会は、グラスルーツの大会においても脳震盪の疑いがあるときには規定外の交代を認めるようなことを検討しているらしい。しかし実際には、そうしたものが伝わりきらないところでも、サッカーの練習や試合は行われている。

 そうした状況でプレーヤーの生命を守るためには、指導者もプレーヤーも、まず脳震盪の恐ろしさを理解し、「疑いがあったら絶対にプレーさせない」という大原則を徹底しなければならない。仮に交代枠を使ってしまった後で、そのプレーヤーを外すことでチームが不利になるとしても、その試合の勝敗など、ひとりのプレーヤーの生命の重さと比べられるものではない。

PHOTO GALLERY 【図表】サッカーにおける脳振盪に対する指針(JFAのHPより)
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5