■ドクターの制止も振り切って
アクシデントが起きたとき、すでに両チームとも規定の3人の交代を使い切ってしまっていた。最後のパワープレーをかけるオーストラリアに、センターバックであり、キャプテンであり、守備の中心であるジュマを欠くのは、UAEにとって大きな痛手だ。
ここで予想外のことが起きた。上半身を起こしたジュマがプレーを続けると主張したのだ。必死に説得するドクターを制し、ジュマは立ち上がってタッチラインまで移動し、佐藤主審に「戻る」とアピール。それをさらにドクターが止めるが、止めきれず、あきらめると、ジュマはピッチに戻ってしまった。
だがその直後、右からのオーストラリアのロングスローが左に流れるところを、体を反転させながらジュマがクリアしようしたのだが、足がもつれ、力なくけって、そのままふらふらと腰をついてしまう。そこにボールを拾ったオーストラリアのクロスがくる。必死に立ち上がってこれに対応しようとしたジュマだったが、プレーが切れるとまた倒れ込む。そしてまだやると言い張るジュマをチームメートがなだめ、ようやく外に出して試合が再開された。
大事に至らなかったのは、本当に幸運だった。当時のUAE監督はアルベルト・ザッケローニさんである。本来なら、ドクターの意見を聞いてジュマにプレーをやめさせるべきだったが、「4分」と示されたアディショナルタイムのなか、チームに声をかけるのに必死で、ドクターに意見を聞くことも、ジュマを止めることもできなかった。ザッケローニ監督も、なんとかジュマがプレーを続行してくれないかと思っていたのである。