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ようやく春が訪れて、サッカーシーズンが本格的に幕を開けようとしている。国際サッカー評議会(IFAB)は昨年末、脳震盪についての新ルール案を発表した。ヘディングが重要なプレーであるサッカーにおいて、脳震盪はけっして珍しいスポーツ外傷ではない。頭を強く打って倒れこんだプレーヤーが、すぐにプレーに復帰しようと、タッチラインからレフェリーに合図している姿は、日常的に見かける光景だ。すべてのサッカー好きの諸氏に、本稿をお読みいただき、ぜひ認識を新たにする機会にしていただきたい。
■アジアカップでの恐ろしい出来事
昨年12月、サッカーのルールを決める組織である国際サッカー評議会(IFAB)が脳震盪に関する新ルールの試行案を発表した。試合中に脳震盪が起きた場合に、規定の交代数が終了しても交代を認めるというもので、場合によってはいちど退いたプレーヤーが再出場してもいいというものだ。これを受け、Jリーグとことし9月から始まる女子プロのWEリーグでは試行に参加することをすでに表明している。
IFABは脳震盪の問題を何年間も検討し、その結果、新しい「ルール改正案」をまとめるに至ったのだが、その背景には、脳震盪の恐ろしさに対する理解が進まないことがある。脳震盪の恐ろしさがわかっていればそれ以上プレーさせてはならないことは明白なのに、プレーヤーは試合を外れるのを嫌がり、監督も試合結果にとらわれて交代させられないという状況が、ずっと続いているのだ。
2019年1月にUAEで行われたAFCアジアカップで、恐ろしい光景を見た。開催国UAEと前回チャンピオンのオーストラリアがアルアインで対戦した準々決勝のことである。後半終盤、アディショナルタイム入り直前に、1点を追うオーストラリアが左からクロスを入れ、それにFWレッキーが飛び込む。そしてクリアしようとしたUAEのDFジュマと激突、2人ともピッチ上に倒れた。
主審は日本の佐藤隆治さんだった。彼はすぐに笛を吹いて、遅れてはいったレッキーのファウルをとり、2人のところに駆け寄った。ジュマの様子を見たUAEの選手が血相を変え、UAE陣左コーナーの外に待機している救急車に「早くこい!」と怒鳴る。両チームのドクターがはいり、裂傷だったレッキーは頭を包帯でグルグル巻きにして立ち上がる。しかしジュマは起き上がらず、頭を固定されてタンカでゴール裏に運び出されたのは、3分以上過ぎたときだった。