2020年の暮れ、押し詰まったわずか3日間のうちに、サガン鳥栖の下部組織が2つの年代の全国大会で優勝を飾ってみせた。ともにノックアウト方式の大会であり、簡単にできることではない。しかし、ここ数年、鳥栖はU-15でもU-18でも、毎年のように好成績を残しているのだ。驚異的な勝負強さの理由はどこにあるのか――。
■対戦チームの戦い方に柔軟にアジャスト
日本クラブユース選手権大会で初優勝したU-18の選手たちは、そうした経験をもっと直接的な形で持っていた。
つまり、今年U-18で初優勝したのは、3年前にU-15の大会で初優勝をした世代の選手たちだったのだ。
実際、2020年12月の日本クラブユース選手権大会決勝でのスターティングメンバーとベンチ入りした選手を合わせた18人のうち、実に6人が3年前のU-15の大会での決勝戦を経験していたのだ。そして、2020年のU-18の指揮を執っている田中智宗監督は、3年前にU-15でタイトルを獲得した時にも監督を務めていた指導者だった。さらに言えば、2017年12月にU-15で優勝した時の決勝戦の相手はFC東京U-15深川であり、2020年に決勝で顔を合わせたのもFC東京U-18だった(FC東京の側にも、3年前の決勝を経験していた選手がベンチ入りも含めて5人いた)。
ノックアウト式トーナメントを勝ち上がって初優勝に辿り着くのは難しいことだが、サガン鳥栖の選手たちは3年前の同じ12月にすでに“それ”を体験していたのだ。
そうした経験値が、勝負強さを生んだ原因の一つであることは間違いないだろう。
もう一つ、サガン鳥栖の試合を見ていて感じるのは、彼らがどんな試合展開になってもそれに対応していける柔軟性を持っていることだ。
こうした大会では、さまざまなスタイルのチームと対戦することになる。
パスをつなぐことがうまいチームもあれば、フィジカル的に優れた選手がいるチームもある。守備的な相手もあれば、超攻撃的な相手もあるだろう。
また、サッカーというのは(他のどんな競技でも同じことだろうが)、まったく同じ相手と再び戦っても必ずしも前回の対戦と同じような試合展開になるというものではない。いや、試合によって、展開はまったく変わってしまうことの方が普通だ。偶然のような、事故のようなゴールが生まれることもあるだろうし、ピッチコンディションや風などコンディションの影響を受けることもある。また、レフェリーの判定によって泣かされることもあるだろう。
試合に勝つためには、そのように次々と変化していく試合展開に合わせてプレーしていく必要がある。自分たちのサッカー・スタイルを確立することはとても大切なことだが、いつでも、どの試合でも自分たちのスタイルに固執していては勝利には結びつかない。
その点で、サガン鳥栖の下部組織のチームの試合を見ていると、様々な戦い方にアジャストできているように見える。
相手がロングボールを使ってフィジカル的な勝負を挑んでくれば、こちらも同じようにロングボールを蹴って対抗する。相手がパス回しにこだわるチームなら、しっかりとスペースを閉じてパスコースを消してしまう……。先制されて相手が守備的になった場合には思い切って攻撃的になれるし、リードして残り時間が少なくなった時の戦い方も分かっている。