記念すべき第100回天皇杯全日本選手権は、2021年1月1日に国立競技場で決勝がおこなわれ、J1王者の川崎フロンターレが同2位のガンバ大阪を1−0で下し、初優勝を飾った。川崎は同一シーズン2冠を達成し、この試合を最後に引退する中村憲剛は、ベンチ入りしたが、出場機会はなかった。サッカージャーナリスト・後藤健生が見たこの大会、この一戦。
■ガンバ大阪の勝利への戦略
1対0という最少得点差ではあったものの内容的には川崎フロンターレの完勝だった。事実、公式記録によればシュート数は川崎の27本に対してガンバ大阪は7本。「シュート27本」というのは、まるでフットサルのような数字だ。
だが、得点はたったの1点にとどまり、さらに80分以降にガンバ大阪に「あわや同点」という場面を何度か作られたために「苦しい試合」という印象も残った。なにしろ、2020年シーズンの川崎は大量得点が当たり前のチームだ。たとえ勝利したとしても、1対0のスコアでは「1点しか入らなかった」と思われてしまうのである。
事実、11月25日に行われたJ1リーグ第29節のG大阪戦では川崎は5対0で圧勝してリーグ戦の優勝を決めていた。
G大阪の宮本恒靖監督にとっては、その試合で見せつけられたチーム力の差をどのように埋めて勝負に持ち込むかが課題だった。
元日決戦に当たって、宮本監督の狙いはこんなものだった。
まず、守ること……。これには選択の余地はない。今シーズンの川崎が相手では、どんなチームであっても、ボールを握られて守る時間が長くなるのは仕方のないことだ。問題は、どうやって守り、それを勝利に結びつけていくかだ。
大事なのは引いては守らないことである。いくら自陣ゴール前を固めても、川崎のパス・サッカーによって結局は崩されてしまうだろう。そこで、G大阪は川崎が中盤で回すパスのコースを読み切って、なるべく高い位置でインターセプトしてショートカウンターを狙うことを選択した。前線には負傷から復帰した宇佐美貴史とパトリックという決定力のある選手がいるから、2人を武器にカウンターからゴールをもぎ取ることは可能だろう……。