■「オンラインの世界では上限はなくなる」
ここまで見てきたように川崎のYouTubeチャンネルの成功は確かな成果である。
ただ、それとて、大きな目標にむけた通過点に過ぎない。
川崎は現在、1万人程度を収容できる新しいアリーナ建設に向けて、準備を進めている(順調にいけば今シーズン中にはその候補地が発表される見通し)。
現在の本拠地とどろきアリーナでの最多動員記録は4732人だから、キャパシティーは大きく増えるわけだが……。
「新しいアリーナができたとしても、試合当日のアリーナでの興行をゴールとするビジネスでは、その収容人数が限界になってしまいます。それでは、入場料収入、グッズなどのMD(マーチャンダイジング収入)や飲食物の収入もアリーナのキャパで頭打ちになってしまいます」
新しい時代が来るのがわかっているからこそ、その先をみすえてのオンライン戦略なのだ。
「デジタルで、アリーナのキャパシティーにとどまらないような価値を提供することが目標なのです。リアルな世界では1万人という上限も、オンラインの世界に出ていければ、一切なくなるので」
コロナ禍によって軌道修正を余儀なくされる可能性はあるにせよ、Bリーグは今後、トップカテゴリーである「B1」の参入要件として最低の平均観客人数を設けることを発表している。そのため、各クラブが1万人規模の自前のアリーナの建設にむけて必死になっている。
川崎にとっても、それは同じだ。ただ、彼らは同時に、新アリーナの完成をゴールにしないための準備を着々と進めているのだ。
「“長期的”には……傲慢かもしれないですが、デジタルを使って、“こういう形でやればクラブは安定して新しいお客さんを増やし、安定して経営していける”というようなスキームをスポーツ界に提示できたらいいですよね。そういう形で、スポーツ界に貢献したい。今はそう思っています」
現実世界に左右されない仕組みを作る川崎の取り組みは、未来のスポーツ界の目指すべき道を照らしているのかもしれない。