■サッカーライターはかつて、原稿を電話で編集者に送っていた
さて、電話回線経由でインターネットにつなげていた時代のお話です。電話器にモジュラージャックというものを差し込んでPCとつなげるのです。PCで通信を起動するとダイヤルされて、「ピーッ、ガー~~」という音が聞こえてきて回線がつながります。ホテルに到着すると、まず部屋の電話で回線がつながるかを確認します。「ピーッ、ガー~~」が聞こえてくると一安心して、それから上着を脱いで荷物を開いたものでした。
ところが、旧式の電話器はモジュラージャックを差し込む穴(ポート)がなく、壁から出ているケーブルが直接電話機につながっています。
1998年にタイのバンコクでアジア大会があった時に泊まった「サイアム・オーキッドイン」という安ホテルがそうでした。朝食のお粥がとても美味しくてお気に入りの宿だったんですが、インターネットが使えません。
そこで、僕は電話工事をすることにしました。工具など持っていませんから、使ったのは爪切りとバンドエイドでした。
まず、爪切りで電話のケーブルを切断して導線を引っ張り出します。そして、モジュラージャックの延長用のアダプターを分解して、バンドエイドでそのメス穴(凹)の方を電話線につないで完成です。その穴にモジュラージャックを差し込めばダイヤルアップできますし、電話も使えます。むしろ、こんな簡単な工事でデータが送れるようになったことがむしろ不思議でした。
それから7年後の2005年。ジーコ監督の日本代表がウクライナに遠征しました。終了間際にDFの箕輪義信(川崎)が反則を取られてPKとなって、日本は0対1で敗れてしまいました。ウクライナ代表監督は、あのオレグ・ブロヒンでした。
その時に泊まったウクライナ・ホテルの電話もモジュラージャックがない旧式でした。
そこで、僕はまた電話工事をすることにしました。電話線をブッツンと切断して、モジュラージャックの凹穴を接続……。ところが、どういうわけか回線がうまくつながりません。データ通信だけではなく、電話も使えなくなってしまいました。
そこで、僕はホテルのレセプションまで降りて行って、こう言いました。
「私の部屋の電話はケーブルが切断されていて使えないんだが、キミィ、部屋を変えてくれたまえ」
レセプショニストはすぐに新しい部屋を手配してくれました。ラッキーなことに、新しい部屋の電話はモジュラージャック・タイプのものでした!