■久保は周囲の良さを見つける天才

 「そういった若い選手へのアプローチについてのルールがFIFAによって定められ、タケのようにFIFAルールによってスペインでプレーできなくなるという事案が発生しました」 
 
「タケ」というのは、今や日本サッカー界の顔となろうとしているビジャレアル所属の日本代表FW久保建英だ。 
 
 小学生の頃にバルセロナに認められてマシアに入り、順調に力を伸ばしていた。だが、FIFAが18歳未満の外国人選手の獲得ルールに違反したとして制裁措置を受け、久保は公式戦に出場できなくなってしまった。そうした状況が続き、久保は帰国を決断することとなる。 
 
 神蔵氏は、スペインに来た頃の久保の家庭教師をしていた。初めて会ったのは、スペインに来て2年目だったが、久保はすでにスペイン語をマスターしていたそうだ。国語や算数、理科、社会といった教科もあっという間にこなす知能の高さがあり、「学業に関する頭の良さでもすごく秀でていて、頭の回転レベルも頭抜けていたと思います」と、懐かしそうに振り返る。 
 
 マシアでの練習ではゴールを多く決めているのに、公式戦には出られない。それでもチームに帯同して荷物運びを手伝う。忸怩たるものを抱えた末の決断だったが、帰国した久保からはポジティブさを感じたと神蔵氏は語る。 

「日本でのチームメイトを見て、バルサの選手よりうまいかもしれないと言いながらプレーしていましたね。日本の選手たちの足元の技術であったり、バルサの子たちとは違うサッカーの良さをすぐに見つけ出して、自分が向上すべきポイントを理解するのが早いんだと思います。
 
 建英はスペインのうまさを知った後、日本のうまさを改めて体験しました。そこに自分のスタンダードを築き、仲間たちが自分よりもできることをたくさん持っていると感じ、それによってモチベーションを高めてプレーし続ける。スペインと全然違うからつまらないという方向に行くのではなく、日本のサッカーの高みを目指す方向にすぐ順応できる。13歳でのそうしたシフトチェンジはつらいものだと思うからこそ、本当にすごいと思います。彼はおそらく、人や物事の良いところを見つけるのが得意なんです」
 
 神蔵氏がヴィッセル神戸で通訳を務めた元スペイン代表FWダビド・ビジャも、久保を称賛していたという。 
 
「日本のインタビューでその話を尋ねられることも多くて、良い選手であるということを、いろいろな言葉で表現していました。(昨季)マジョルカであれだけのプレーができていたし、あれだけの試合に出場している19歳がリーガにどれほどいるか。リーガでプレーしていたビジャとしては、彼がやったことがどれだけすごいか分かっていました。すごく将来性がある選手だと、答えていました」

 スペインのうまさと、日本のうまさ。その違いを理解しつつ融合できる才能、そしてその作業の結果が、今の久保建英につながっているのかもしれない。

 また、その2つの「うまさ」の違いには、日本サッカー発展の可能性が秘められている。

<その4「ダビド・ビジャが語る日本サッカーの可能性 」に続く>

かみくら・ゆうた 東京都出身。大学卒業後、スペインにてスポーツ経営学を修める。卒業後、留学コーディネーターの現地駐在員としてバルセロナにて8年勤務。その後、アンドレス・イニエスタの日本への移籍に伴いヴィッセル神戸の通訳として業務を開始。翌年に神戸に加入したダビド・ビジャの通訳も務め、天皇杯獲得を置き土産としたビジャの引退と同時に神戸を離れる。現在はビジャが展開するDV7プロジェクトの日本支部マネージャー。

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