サッカーに携わる仕事をしたい――。そう願ってスペインへと渡った男には、現地で肌を通じて学んだからこそ見えてきた、ピッチ内外でのスペインサッカーの真の姿がある。世界的名門FCバルセロナの高名なるアカデミー「ラ・マシア」の内部を垣間見、久保建英とも知己を得て、現在では通訳も務めた元スペイン代表FWダビド・ビジャとビジネスパートナーとなり世界を視野にフィールドを広げる神蔵勇太氏に、スペインサッカーの真実、コラソン(魂、真髄)を聞いた。
■幼少の子どもたちに群がるスカウトと代理人
現在ヴィッセル神戸でプレーするアンドレス・イニエスタなど、多くの名手を輩出したラ・マシア(以下、マシア)。その育成機関は単なるエリート養成組織ではなく、厳しい競争社会であるという。
選手としてだけでなく、一人の人間としても力を磨いていかなければならない。その過酷なまでのヒエラルキーの形成に、大人も加担してしまっているのだと、神蔵氏は語る。
「現在はわかりませんが、以前は日本の小学生年代にあたるベンハミン(8-9歳のカテゴリー)やアレビン(10-11歳のカテゴリー)の試合会場では、常に世界中から来たスカウトや代理人が目を光らせていました。試合がショーケースのようになり、8歳の子供に代理人が声をかけるのが当たり前の風景になっていました。当然、育成年代の選手同士の競争も一層激しくなり、サッカーで成し遂げられる物事のリアルさを幼くして理解することになります」
さらに若年代で広がりを見せるSNSを有効活用し、100万人のフォロワーを持つマシアの選手もいたという。バルサのU-16のサイドバックは、左はシティ、右はユナイテッドと、イングランドのマンチェスター勢へと引き抜かれていったそうだ。「バルサでプレーしている育成選手たちへの 将来投資を目的とした移籍の低年齢化が増え、ヨーロッパ全土でも若い選手への注目度が高まる傾向が進んでいます」と神蔵氏は懸念する。