■川崎の中心としてJ1に初見参

 中村憲剛は28シーズン目を迎えたJリーグでも、いや、その前の27シーズンの日本サッカーリーグ時代にもいなかったタイプのプレーヤーだ。

 最初に彼を見たのは2005年、川崎フロンターレがJ1に2回目の昇格を飾ってからしばらくしてのことだった。前年のJ2で34勝4分け7敗、勝ち点105、44試合の総得点104と圧倒的な強さで優勝を飾った川崎のなかで、中央大学を出て2年目の憲剛は完全にチームの中心となり、サポーターの希望の星になっていた。

「細い!」というのが第一印象だった。メンバーリストには174センチ、66キロと記されていたが、エースストライカーのジュニーニョ(174センチ、60キロ)より体重があるようには、とても見えなかった。

 だがひとたびボールがわたると、憲剛は技術の高さと流れるようなプレーで目を引いた。なかでも驚かせたのは、スルーパスの感覚だった。ジュニーニョ、黒津といったストライカーたちは、憲剛がボールをもつと躊躇なく相手ラインの背後に走った。そこに、鋭く、しかも走る速さにぴったりのパスがくる。絶対的なタイミングのセンスというサッカーで最も重要な能力を憲剛がもっていることは、数プレーを見るだけで明らかだった。ただ、「この細さではつぶされるのではないか」という危うさも十分あった。

※第2回に続く

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