■ボールと人の速度の比率
それに比べたら、サッカーのパスなど実にアバウトなものだ。
パスが2、3メートルズレたとしても、受け手が素早く動けば簡単に受けることができる。もっと極端に言えば、オープンスペースにパスを蹴り込む場合なら、受け手が40メートルとか50メートル走って受けることになる。ボールの初速はかなり速いとしても、芝の上を転々と転がっていく時には人間が走るスピードとほとんど同じになってしまうから、受け手が一所懸命に走ってくれれば、かなりアバウトなパスであってもパスがつながることはつながる。
一昔の、ドイツのサッカーがこんなだった。
スペースを見つけて相手より早く動き出す。そして、ボールホルダーはパスの精度を犠牲にしてでも一瞬でも早く、そのスペースにボールを蹴り込む。受け手はボールに追いつければ、相手のプレッシャーを受けずに処理することができるというわけである。それを繰り返して、手数をかけずにゴールに迫っていく……。
つまり、水球で極端にパス精度が要求されるのは、ボールのスピードと走るスピードの比、「ボールの速度対人の速度」の比が大きいからなのだ。ここで大事なのは、スピードの絶対値ではなく、その「比」の問題なのだ(水球の指導者とも話したことがあるが、彼らもこの問題について意識しているようである)。