■パスコースがもしもズレたら

 水球というと「水中の格闘技」といったように紹介されることが多いが、その緻密なパス回しのことはほとんど紹介されていない。

 水球ではパスを受ける選手は立ち泳ぎをしながら片手でボールをキャッチするのだ。そのため、パスはきわめて正確に受け手の、しかもキャッチする方の手を狙わなければならない。何しろ、選手が動くスピードはきわめて限られているのだ。

 男子100メートルの世界記録を考えてみよう。

 陸上競技の場合はウサイン・ボルト(ジャマイカ)が2009年に出した9秒58であり、一方、競泳の場合はセーザル・シエロ(ブラジル)がやはり2009年に出した46秒91。つまり、人が泳ぐスピードは走るスピードの4分の1から5分の1ということになる。しかも、これは「ヨ~イ、ドン!」で踏切台から踏み切って飛び込んだ場合のスピードだ。立ち泳ぎの状態からスタートダッシュして加速したり、ストップしたり、ターンをしたりするのは陸上に比べてはるかに難しい。

 したがって、水球の場合、パスコースがちょっとでもズレたらキャッチすることは不可能になるのだ。

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