■三好には「ふざけんなよ(笑)って」
2018年11月4日、J1第31節での再会がひと際強く記憶に刻まれるのには理由がある。0-0で迎えた74分、札幌のロングボールが競り合いになり、ペナルティエリア前にこぼれた。ゴールへ向かって走る形になりながら、板倉は余裕を持ってバウンドしたボールを処理しようとしたのだが、その瞬間、「事件」は起こった。背後から近付いていた三好が急加速してボールを奪い、そのままシュート。これが決勝点となったのだ。
――札幌戦の失点シーンは覚えていますか。
「アウェイでの試合ですよね? 三好だからこそ、あのボールを取られたなとすごく感じます。いつもああいう時に一つフェイントを入れていたので、三好は僕がやることをわかっていたんですよ。小学生の頃からやっている三好を相手にあれをやったら、バレても当然だなあと今でもすごく感じます。普通ならクリアすると思いますが、自分のボールにしようとしたんです。相手が三好だったというのがポイントですね。試合が終わった後に、“オレからは点を取るなよ、ふざけんなよ”って言っておきました(笑)」
川崎時代は、プロ入り以前から大ファンだった中村憲剛に、プロとして生きていくためのいろいろな話を聞かせてもらったという。仙台で溶け込む力になってくれた野津田とは、「ご飯も一緒に行っていたし、基本的にいつも一緒にいました」と笑う。
仙台では、板倉をモチーフにした「イタッチ」グッズをつくってもらった。完売したことには、「売れ残ったら全部買いますと言っていたくらいなので、びっくりしました」と目を細めた。「めちゃくちゃ、よく行ってました。牛タンのしゃぶしゃぶが大好きでしたね。めちゃくちゃおすすめですよ」という国分町の和食「五臓六腑」、試合前に仲間たちと必ず行っていた勝負飯の店など、忘れられない思い出がたくさんある。「今でも仙台愛が強いというか、あの1年で仙台という街自体がすごく好きになりました」と、懐かしそうに語る。
そう話す板倉は今、オランダにいる。小学校時代からの仲間である三好は、隣国のベルギーでプレーしている。国境を越えた大会があるヨーロッパのピッチ上で、また再会することがあるかもしれない。
これまでの歩みと、これからの未来と。サッカーボールとともに、すべてはつながっている。
いたくら・こう 1997年1月27日、神奈川県生まれ。小学校4年生で、立ち上げられたU-12チームに1期生として加入して以降、トップチームまで川崎フロンターレ一筋で育った。2018年には、期限付きでベガルタ仙台へ移籍。2019年1月には、イングランドの世界的名門マンチェスター・シティへと電撃移籍。すぐにオランダのフローニンゲンへ期限付き移籍し、昨季は年間を通して主力としてプレー。U-18から年代別日本代表に選ばれ続けており、昨年6月にはフル代表でもデビュー。来年の東京オリンピックやワールドカップでも活躍が期待されている