■足と脚に「5G接続」せよ
ではなぜ、「第2の釜本」が生まれないのか。それは、釜本ほど「止める・ける」をつき詰める選手がいなかったからにほかならない。
日本代表やJリーグの試合を見ると、試合前のウォーミングアップはたいていシュートでしめくくられる。ペナルティーエリアでコーチとパスを交換し、戻ってきたボールをコントロールしてシュートする。シンプルな練習だが、見ていると、ゴールが決まる確率は非常に低い。10本に1本というところなのだ。4本はGKに防がれ、5本はゴールの枠を外れる。釜本なら、10本のうち9本はゴールの枠に飛ばし、そのうち6本を決めるだろう。
すばやい動作で強いシュートを確実にゴールの隅に送り込むこと――。大学生になったころから、釜本はその1点に集中して練習した。そのための練習は、もっぱら個人練習だった。チーム練習が終わった後、彼はGKと数人の若手にグラウンドに残ってもらい、パスを受けて止め、それをシュートするという練習を納得するまで繰り返した。それによって、足から最も遠いところにある自分自身の「目」と「中枢神経」を、まるで「5G接続」のように足と直結させたのだ。
その結果、どんなに近くに相手がきても動じず、自分のタイミングでプレーできるようになった。釜本の映像を見ると、止める、けるの動作がまるでリプレー映像を見るようにどんなときにでも同じであることにいまも驚く。ボールはいつも地を這うように飛んでポストぎりぎりに決まった。
現代の選手たちは、多彩なテクニックを身につけ、戦術的な要求にも簡単に応える能力をもっている。しかしサッカーで勝敗を決めるのは、唯一「ゴール」なのである。「チャンスをつくったが決定力がなかった」では、勝利を重ねるチームをつくることはできない。ゴールに向かってけったとき、高い精度で狙ったところにけり込むことができる選手を育てなければ、日本サッカー目標とする世界の上位に行くことはできない。そして何より、釜本がそうしたように、ストライカー自身が、シュートを正確にけり込むということにもっともっと責任感をもつべきだ。そのために何をなすべきか考え、1本1本考えながら、目と中枢神経が足と直結するまで練習を繰り返すしかない。